「昔はもっと働いていた」が会社を止める理由
「昔は、もっと遅くまで働いていた」
「自分の若い頃は、休みなんてほとんどなかった」
多くの社長が、一度は口にしたことのある言葉かもしれません。
この言葉には、怠けを戒める意図があるわけでも、
社員を責めたい気持ちがあるわけでもありません。
むしろそこには、
「自分も頑張ってきたのだから」という誠実さや、
会社を守ろうとしてきた責任感がにじんでいます。
だからこそ、この言葉は扱いが難しいのです。
正しさを含んだ言葉ほど、
会社を静かに止めてしまうことがある。
この言葉が出てくるとき、何が起きているのか
「昔はもっと働いていた」という言葉が出てくる場面を、
少し思い浮かべてみてください。
多くの場合、それは
社員の働き方や姿勢に、違和感を覚えたときです。
残業を嫌がる。
定時で帰ろうとする。
効率やバランスを口にする。
そうした様子を見て、
社長の中に「本当に大丈夫だろうか」という不安がよぎります。
その不安に、過去の自分の経験が重なったとき、
この言葉は自然と口をついて出てきます。
つまりこの言葉は、
社員への叱責ではなく、社長自身の不安の表れなのです。
過去の成功体験は、静かに基準になる
社長がこれまで会社を続けてこられたのは、
間違いなく過去の努力と判断があったからです。
長時間働いたこと。
無理を重ねたこと。
休みを削ってでも踏ん張ったこと。
それらが結果につながった経験は、
社長の中で「正しい働き方の基準」として残ります。
問題は、その基準が
無意識のうちに、今の社員にも当てはめられてしまう点にあります。
時代も、環境も、業務の中身も変わっています。
それでも基準だけが過去のままだと、
ズレは少しずつ広がっていきます。
社員は「楽をしたい」のではない
ここで、はっきりさせておきたいことがあります。
今の社員は、
必ずしも「楽をしたい」わけではありません。
彼らが求めているのは、
少ない労力で、同じかそれ以上の成果を出す方法です。
それは怠慢ではなく、
合理性の感覚です。
しかしこの合理性は、
「昔はもっと働いていた」という言葉によって、
否定されたように受け取られてしまうことがあります。
その瞬間、社員はこう感じます。
「この会社では、
過去の基準が優先されるのだ」と。
基準が過去にある会社は、前に進みにくい
働き方の基準が過去にある会社では、
新しいやり方が提案されにくくなります。
効率化の提案。
業務の見直し。
役割分担の再設計。
こうした話が出ても、
「でも昔は…」という空気が漂うと、
議論はそこで止まってしまいます。
誰も反論はしません。
ただ、挑戦しなくなるだけです。
その結果、会社は変わらないまま、
環境の変化だけが先に進んでいきます。
この言葉が一番、社長自身を縛っている
「昔はもっと働いていた」という言葉は、
実は社員よりも、社長自身を強く縛っています。
過去の自分を基準にしてしまうことで、
今の自分が休むことを許せなくなる。
現場を離れることに、
どこか後ろめたさを感じてしまう。
Day10で触れた
「社長が現場に出続ける構造」は、
この価値観と深く結びついています。
過去の頑張りを手放せない限り、
社長は自分の役割を更新できません。
会社が見るべき基準は「過去」ではなく「今」
過去の努力を否定する必要はありません。
ただ、会社がこれから進むために見るべき基準は、
「昔どうだったか」ではなく、
「今、何が必要か」です。
今の業務量。
今の市場環境。
今の社員の状態。
それらを基準に、
判断と構造を組み直していく必要があります。
それができたとき、
社長の過去の努力は、
初めて「次につながる資産」になります。
まとめ:言葉を変えると、会社の動きが変わる
「昔はもっと働いていた」という言葉は、
決して間違いではありません。
ただ、その言葉が
今の会社にとって何を止めているのかを、
一度だけ考えてみてください。
基準を過去から今に移すだけで、
社員の動きも、
社長自身の役割も、
少しずつ変わり始めます。
次の章(Day12)では、
「頑張っている社長ほど、異変に気づきにくい理由」について掘り下げていきます。
