不調社員はコストではない。経営判断の「材料」だ

体調を崩しがちな社員や、以前よりパフォーマンスが落ちている社員を見ると、多くの社長は無意識のうちに「戦力としてどうなのか」「会社として抱え続けるべきなのか」といった判断を頭の中で始めています。

このとき、不調な社員は「コスト」として捉えられがちですが、本当に問うべきなのは、その社員をどう扱うかではなく、その状態が何を示しているのかを経営としてどう読み取るか、という視点です。

この章では、不調社員を擁護する話でも、情に訴える話でもありません。


不調社員は、経営判断のための重要な「材料」である

という視点から、会社を見るための話です。


「問題のある社員」が増える会社の共通点

「最近、問題を起こす社員が増えた」「どうも使いづらい社員が多い」と感じるとき、社長はつい個人の資質や姿勢に原因を求めてしまいがちですが、同時期に複数の社員が不調を訴えたり、パフォーマンスを落としたりしている場合、それは個人の問題ではなく、会社側の状態が反映されている可能性を考える必要があります。

一人の不調は偶然かもしれませんが、二人、三人と続くとき、それは構造的な変化が起きているサインです。

つまり、不調社員が増える会社では、社員が弱くなったのではなく、会社の側が社員に無理をさせる状態になっているケースが少なくありません。


不調は、突然現れるものではない

体調不良やメンタルの不調、集中力の低下といった変化は、ある日突然現れるものではなく、日々の業務の中で少しずつ蓄積された結果として表に出てきます。

長時間労働、判断の連続、余白のないスケジュール、相談しづらい空気といった要素が重なることで、人は気づかないうちに回復する力を失っていきます。

この段階では、本人も「まだ大丈夫だ」と思っていることが多く、周囲から見ても大きな問題には見えません。

しかし、ここで無理を重ねた結果として現れるのが、「不調社員」という形なのです。


不調社員を「切る」か「守る」か、という議論は的外れ

不調な社員が出てくると、会社の中では「厳しく対応すべきか」「配慮すべきか」という二択の議論になりがちですが、この問い自体が、経営としては少しズレています。

重要なのは、その社員をどう扱うかではなく、なぜその状態が生まれたのか、そして同じ状態が他の社員にも起きる可能性があるのか、という点です。

不調社員は、会社のどこかに無理がかかっていることを知らせる、非常に分かりやすいサインです。

そのサインを「個人の問題」として処理してしまうと、根本的な原因は何も変わらず、別の社員が次の不調社員になるだけです。


不調社員が教えてくれる「限界の位置」

不調社員の存在は、会社にとって都合の悪い現実かもしれませんが、同時に「どこまでなら無理が通用し、どこから先は破綻するのか」という限界の位置を、非常に具体的に示してくれています。

業務量、判断の頻度、責任の重さ、人間関係の緊張度など、抽象的になりがちな要素が、不調という形で一気に可視化されるのです。

これを「コスト」として切り捨てるか、「材料」として読み取るかで、会社の将来は大きく変わります。


経営判断に使うべきなのは「症状」ではなく「背景」

不調社員を見たとき、つい目が行きがちなのは欠勤日数や生産性の低下といった表面的な数字ですが、経営として本当に見るべきなのは、その背景にある業務構造や判断の流れです。

誰に負荷が集中しているのか、判断がどこで詰まっているのか、相談の流れが機能しているのかといった点を見直すことで、不調社員は「問題」から「情報」に変わります。

この視点を持てるようになると、不調社員が出たときの社長の対応は、感情的なものから、極めて冷静な判断に変わっていきます。


不調社員をきっかけに、会社は強くなれる

不調社員の存在は、短期的には負担に見えるかもしれませんが、長期的に見れば、会社の構造を見直すきっかけとして非常に価値のあるものです。

この段階で手を打てば、同じ問題が繰り返されることを防ぎ、結果として他の社員のパフォーマンスや定着率を高めることにもつながります。

つまり、不調社員をどう扱うかではなく、不調社員から何を読み取るかが、経営の分かれ目になるのです。


まとめ:人の状態は、経営の結果である

不調社員は、会社にとって都合の悪い存在ではなく、これまでの判断や構造の結果が、最も分かりやすい形で表に出た存在です。

それをコストとして処理するか、経営判断の材料として活かすかで、会社の未来は大きく変わります。

次の章(Day10)では、社長自身が現場に出続けることで起きる、見えにくいリスクについて掘り下げていきます。